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<編集部からのコメント>
民主党から自民党への大政奉還の中で変更された経済政策は数多くありますが、一方で維持されたものもあり、その一つが「贈与の積極活用」ですね。
ご存知の通り日本では30代−40代を超えてからは、年齢を重ねれば重ねるほど保有金融資産が増えていく傾向にあり、実際のところ日本の個人金融資産の6割が60才以上のシニア層によって占められているといわれています。
もちろんそうやって徐々に資産が形成されていく形というのは健全ですし、何よりご本人たちの努力によって実現できたものですので批判されるいわれは全くないわけですが、ただ「消費」という観点からすると不整合が起きているのも事実です。
つまり最も消費意欲が高い20代−30代、何かと出費が多い子育て世代である30代−40代には余裕がなく、一方、その後の50代−60代では消費意欲も、消費の必要性も徐々に薄まっていくにも関わらず、急速に資産形成が進むからですね。
こうした収入と消費とのギャップをダイレクトに埋め合わせするのが「贈与」です。たしかにシニア世代から子育て世代に資金移動が起これば「もっともお金が必要なときに経済支援が受けられる」という非常に美しい絵が描けます。そうした贈与推進政策の象徴が上記記事にも取り上げられている「住宅資金の贈与」となります。
通常、親子であろうと多額の資金提供が行われれば「贈与税」がかかるわけですが、政府はこうした資金移動を積極的に進めるために一定の条件のもとに非課税枠を設けているのですね。具体的にはこうなります。
・非課税枠上限 : 省エネ、耐震住宅/1,000万円、それ以外/500万円
・利用条件 :
1.もらう側の合計所得金額が2,000万円以下
2.家の床面積が50平方メートル以上240平方メートル以下
3.自身の親や祖父母(直系尊属)からの贈与が対象
上限金額は1,000万円もしくは500万円ということで常識的には「必要十分」という感じがします。
また、利用条件としてもこれまた常識的なものですね。あえて言えば配偶者の家族からの贈与は対象とならないので、もし配偶者側の支援をあてにする場合は、物件を共有名義等にする必要があるということになります。
ただ配偶者側の資金援助者からすると、資金を提供したけれど離婚したらすべて持って行かれた、ということではシャレにならないわけで、むしろこうした制約は合理的なものと言えるかもしれません。
このように整備が整う住宅資金の贈与制度ですが、実際の活用度合いはどれくらいなのでしょうか?
懸念点の1つ目は親子の人間関係ですね。すべての親子が仲がいいとは限りませんし、特に親と息子の関係は微妙な場合が多いのではないでしょうか?
また、お金を出すけれど口は出さないという寛容なタニマチ体質な人は少数でしょうからね。通常はお金は出すが口も出す、ということになりがちです。とすると当初は良好な関係だったものがむしろこじれる、という事態も少なくなさそうです。
2つ目は1つ目とも重なりますが、相対的に親と娘の方がよい関係を築いている場合が多いとすると、上記のとおりその場合は夫氏がそのまま資金を受け取れるわけではありませんので共有名義にするなどの手順が必要となってきます。合理的とは言え、抵抗感を感じる方も少なくなさそうですね。
3つ目は平均寿命が延びる中で、相続を受ける年齢もどんどん上がっています。つまりあてにしている親世代がまだそれほど余裕がない、という事態も考えられますね。マイホーム適齢期である30代−40代の親なり祖父母世代がちょうど「贈与適齢期」に入っているかどうか、というのも現実的な問題の1つです。
もし仮に記者が奇跡的にこうした贈与資金を期待できる状況にあったとしても・・・格好つけるようでなんですが、 「お金は出すが口も出す」ということを恐れてかなり逡巡するのではないかと思います。気に入らないからといって後から返す、なんてことは絶対できませんからね。
では実際にどれくらいの方が利用しているかと言うと、上記記事にもあるとおり、年間7万人前後の方がこの制度を利用しているようですね!で、毎年、持ち家の新規建設数が50万戸前後ですのでそれを分母とすれば約14%の方が贈与制度の恩恵を受けているということになります。
もちろん、中古住宅を購入される方もおられますので実際にはもっと低いのでしょうけれど、それでも「1割前後」という感じとなるのでしょうか。この数字を多いととらえるのか少ないととらえるのかは人それぞれでしょうけれど、記者も多いような、いや考えようによっては少ないような、そんなあいまいな感想を感じております。
気になるのがその実態ですが、以前もご案内した不動産流通経営協会が発表した不動産流通業に関する消費者動向調査で示唆されていますのでご紹介したいと思います。
まず平均的な購入資金の内訳はこうですね。
親族からの贈与は全体の7%ということですね。一方、「親族からの借り入れ」という項目もありますが、こちらは1.0%ということでほとんど存在感はありません。借入は贈与以上にもめる可能性が高まりますからね。避けた方が無難だと思いますが、同じように感じる人が多いということでしょうか。
ただグラフ内にもコメントされているようにこれは回答者の資金内訳を単純合算したもので、実際にこういう割合で住宅購入資金を用意した人がいるわけではありません。集計結果も「自己資金」が41.9%とかなり偏った結果となっています。
そんなわけでもう少し実態に近づくべく、「贈与資金の利用率」と「贈与金額」に迫ると、まず新築住宅購入者ではこのようになっています。
こちらでは2014年の贈与資金の利用率が22.3%+0.5%+0.5%=23.3%ということで、上記「1割前後」と目した利用率からは大幅に高い値となっています!何と4人に1人という割合ですね。ほとんどが親からの贈与という点も興味深いです。祖父母ともなると孫の数も少なくないわけで、なかなかそこまでの余裕がないということなのかもしれませんね。
そしてこの高い利用率もさることながら、注目すべきなのはその平均金額です。何と863万円ということですね!ちなみに前年は929万円ということで1,000万円近い規模となっています。
少数の「高額贈与者」が平均値を引き上げた可能性はありますが、住宅資金を贈与できるのは一般的にかなり経済的に余裕がある家族であるという実情が浮かび上がります。
次に中古物件の購入者の場合はこうですね。
こちらでの贈与の利用率は、2014年実績で14.9%+1.5%+0.8%=17.2%ということで、やはり中古住宅だけに、新築住宅ほどの「ご祝儀」は期待できないのかもしれませんが、それでも想像以上に高い利用率ですね。
平均金額も746万円ということで簡単に出せる水準ではありません。
いずれにしてもこれらの調査結果は、より多くの方が親からの贈与をあてにしている実態を浮き彫りにしているわけですが、それに関連してもう1つ興味深い調査結果が「贈与税の非課税枠の活用割合」です。
ごちゃごちゃ分解されていますが、全体でみるとこの非課税制度を利用した方は10.8%と、当初イメージした「約1割」という水準とピッタリ一致するのですね!
つまり、親からの贈与を受けた人が概ね2割とすると、半分は非課税枠を利用し、残りの半分は非課税枠を利用していない、ということになります。その理由としては・・・
・非課税枠を申告するほどの金額ではない
・非課税枠を利用できないほど多額である
ということになるのでしょうか。
いずれにしてもこの住宅購入資金に占める「贈与資金」の存在感は、利用率・利用金額ともに結構大きいということですね!
運よく、家族関係も経済環境も良好な場合は活用を検討されてはいかがでしょうか。この特例は今年12月末までとなっておりますが、延長が期待されるところですね。恐らく何らかの形で延長されるのではないかと思いますが・・・。
参考になさってください。