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<解説・異論・反論>
住宅ローン金利が歴史的な低水準にとどまっています。こうした低金利の背景として、長引く景気低迷や少子高齢化に伴う日本経済の構造変化があるのは間違いありませんが、直接的な原因を1つ挙げるとすればやはり、日銀による金融緩和政策、ということになります。
金融緩和とは、政策金利を引き下げたり、国債などの購入を通じて金融市場に大量のマネーを投下することで、世の中全体の金利を引き下げる政策ですが、なぜわざわざ金利を引き下げるかと言うと、端的に言えば企業経営が楽になるからですね。一般的な企業は銀行からお金を借りていますので、金利が上がれば金利負担が重く、金利が下がれば金利負担が軽くなります。
その点では住宅ローンを利用している人のフトコロ具合と全く同じわけですが、金利が下がって金利負担が軽くなれば、利益が拡大し、株価が上がり、より多くの人員を採用し、より多くの給料を払えるようになります。こうした影響を通じて景気回復をサポートするわけですね。
一方、逆にバブルが懸念されるほど景気が過熱すれば、日銀はやおら金融引き締めに転じ、金利を引き上げていくことになります。バブルが破裂すると景気拡大期に積み上げてきた利益や利潤を根こそぎ吹き飛ばしてしまい、その後に長い低迷期が来てしまいますので、日銀とすれば適切なタイミングで景気過熱を防ぐ役割が期待されているということです。
日本の場合、バブル崩壊は80年代末でしたので、それ以降は景気テコ入れのためにずっと金融緩和が進められ、その結果としてずっと金利低下が続いていたわけですが、いつもご案内している2000年からの長期金利の推移を見ても、そうした歴史的な経緯がハッキリと見て取れます。この間、長期金利は低水準を続けてきたわけですが、特にリーマンショック以降の金利低下傾向が鮮明ですね。
住宅ローン利用者としてはもちろんこうした金利の低下傾向は歓迎すべきことだと言えますが、そうなってくると気になるのがこの低金利をもたらした金融緩和がいつまで続くのか、ということです。
これまで何度もご案内してきたように、2017年の消費税再増税までは今の「異次元」の金融緩和が継続するのは確実だと思います。変に政策金利をいじって景気が失速してしまえば、増税のチャンスは大きく後退します。財政再建が死活問題となってくる日銀としてもそうしたリスクは受け入れられないと思われるからですね。
ではいつ金融緩和が終了し金利が上がるのかと言うことですが、少なくとも増税直後というのはあり得ません。今回の増税でも1年は悪影響が残りましたので、2018年や2019年までに金融緩和縮小というのはなさそうです。
先日、取り上げたコラムでは、もう一歩踏み込んで「日銀の金融緩和は2020年度にかけて続く可能性が高い」とのことでしたが、その理由は東京オリンピック・・・ではなく、この年が財政状態の指標の1つであるプライマリーバランス黒字化の目標年度だからですね。
>>>超低金利住宅ローンをもたらした異次元緩和は2020年まで続く?
金融緩和を縮小し金利を引き上げれば上記の通り景気が悪化するわけですから、確かに十分考えられる見通しと言えます。
そうした中、今度は新たな「2020年度説」が出てきました。何かと言えば、安倍政権は先日、「GDP600兆円達成」を目標として持ち出してきたのですが、その達成目標年度がその2020年なのですね!
こう書いていくとオリンピックも含め日本のまつりごとの大部分が2020年に向けて動いていくわけですが、その中には財政出動拡大のベクトルもあれば逆に緊縮財政のベクトルもあるわけで、すでに自己矛盾しているような気がするのですがいかがでしょうか・・・。
いずれにしても何かを達成しようと思えば何かを捨てないといけないわけで、矛盾した目標の同時達成を目指す姿勢は「2020年問題」と言えるのかもしれませんね。
それはともかくとして、話を「GDP600兆円目標」に戻すと、これは金利上昇要因となるのでしょうか?それとも金利低下要因となるのでしょうか?
結論から言えばどうやら「金利低下要因」ということになるようです。と言うのもこのGDPは「実質」ではなく「名目」だからですね。
記者もそれほど詳しくなかったのですが、解説などを見ると「実質=物量ベース」、「名目=通貨ベース」ということで、要するに名目GDPを高めようと思えば極端な話、円安誘導などでどんどん円の価値を落としていけばよいということなのですね。
これまで毎年1台500万円の高級車を作っていたとして、その値段が円安などで翌年600万円に値上げされれば、同じものを作っていたとしてもその人が生産した製品の価値は600万円に上昇したことになります。もちろんGDPの産出はそれほど簡単なものではありませんが、GDP=約500兆円から600兆円を目指すのも同じようなメカニズムが働くということですね。
政府としては当然、そのようなギミックなアプローチだけではなく、実質=物量ベースのGDP拡大にも挑むのではないかと思いますが、わざわざ「名目GDP」を選んだということはやはり、金融政策による貨幣価値の下落効果も当てにしているのは間違いありませんね。
「金融政策による貨幣価値の下落効果」 なんて難しい表現を使いましたが、要するに金融緩和をどんどん進めて、金利を下げ、金融市場に大量のマネーを投下し、円安を引き起こし、インフレを進めていくということです。
言い換えれば、この「名目GDP600兆円達成目標」は「2020年まで金融緩和を拡大させる宣言」と言えます。
また、そもそも日銀は「インフレ率2%」という過大な目標を背負っているわけですが、今度は政府が「名目GDP600兆円」という過大な目標を背負ったことで、うがった見方をすれば「これで金融緩和は永遠に続く」と思う方もおられるかもしれません。少なくとも記者は金利上昇が10年単位で後ろ倒しになった印象を受けます。つまり相当の長期間、今の低金利が続く可能性が高まった、ということです。
日本国民としてそうした状態が良いか悪いかは別にして、住宅ローン利用者としては前向きにとらえて良さそうです。
ただ一方で冒頭引用した日経新聞の記事に立ち戻れば、「政権は食品の値上げにつながる円安を招きやすい追加緩和を望まないとの見方が広がっている」とのことで、政府内にもやや矛盾した気持ちがあるようです。
繰り返しになりますが、何かを達成しようと思えば何かを捨てないといけないわけで、本気で「インフレ率2%」や「名目GDP600兆円」を達成しようと思えば、そうは言ってもどこかで円安という「毒りんご」を食べないといけなくなる気がします。果たして政府・日銀はいつどのタイミングで追加金融緩和を決断するのでしょうか・・・注目ですね。
もちろん追加緩和が行われれば当然金利はさらに低下することになります・・・円安も進みますが。
参考になさってください。