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さて、何ともなくYahooニュースをチェックしているとトンデモない記事に出くわしました。「住宅ローンの3割近くが延滞!?」というものです。
出典はWEBメディアである「アゴラ」のようですので、新しい記事がそのままYahooに自動的に転載されただけなのかもしれませんが、こんな誰が見てもおかしいとわかる内容が配信されてしまうということは、Yahooにしても元のアゴラにしても記事の中身を真面目にチェックしていないということですね。いやはや。
もしかするとタイトルに「!?」をつければOKという編集方針なのかもしれませんが、東スポではあるまいし、何の言い訳にもならないでしょう(ちなみに件の東スポは意外と記事のクオリティが高いという指摘を最近見かけましたが)。
と、メディアの編集品質に対する批判はこれくらいにして、その「住宅ローンの3割が延滞」とする根拠をチェックしてみると記事ではこのように説明されています。
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・「2017年 大局を読む」(長谷川慶太郎著 徳間書店)を読んで、対年なショックを受けました。住宅ローン金利が史上最低の0.5%割れを起こしているにもかかわらず、3割近くが延滞に陥っているというのです。当該箇所を同書から引用すると以下のようになります。
・住宅ローンの未済、つまり住宅ローンを借りた人が契約どおりに返済できないというのが住宅ローン全体の3割近くに上っている。銀行のいちばんの恥部だ。そのことについて住宅業界や銀行業界から広告をもらっているマスコミは目をつぶっている。銀行によって住宅ローンの未済の割合は違うけれども、未成の物件は競売にかけなくてはいけないので、今はどこの裁判所でも競売担当の部署は人でごった返している。
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そもそも「大変なショック」を「対年なショック」とのっけから誤植されたまま配信されている時点で誰もチェックしていないのは明らかですが、その中身もひどいですね!読んだ本に書かれていた数行を引用して、それを「事実」として話をつないでいるわけです。裏取りくらいしましょうよ・・・。
さらにその引用元にしても「住宅ローンの未済、つまり住宅ローンを借りた人が契約どおりに返済できないというのが住宅ローン全体の3割近くに上っている」と述べているのみで、その根拠が全く明らかになっていません。
もちろんこれは引用元のせいではなく、引用者がその部分を引用しなかっただけの可能性がありますが、しかしその次の「そのことについて住宅業界や銀行業界から広告をもらっているマスコミは目をつぶっている。」と陰謀論が続いているのを見ると一気に「眉唾」感が出てきますね。
全てのマスコミが住宅業界や銀行業界から広告をもらっているわけではありませんし、仮に住宅ローン利用者の3割もが自宅を競売にかけられているのだとすれば大きな社会問題になっているはずで、目をつぶることは不可能です。
そもそもほとんどの業界はマスコミに広告を出しているわけで、もしそうした広告主に気兼ねしているということであれば、企業の一切の不祥事は報道されなくなりますが、実際にはむしろ恰好のスクープとして多くのメディアがネタ探しにしのぎを削っているのが実情です。
ただそうは言いつつ、「住宅ローンの3割近くが延滞」という指摘に多少の信ぴょう性はあるのではないかと感じている方もおられるかもしれませんので、実態はどうかチェックしていきたいと思います。
まず詳しく調べるまでもなく分かることは、筆者の方自身が指摘しているように「住宅ローン金利が史上最低の0.5%割れを起こしている」という事実です。仮に住宅ローンの3割が焦げ付いているのだとすれば、そのコストは当然、利用者に転嫁されます。さもないと銀行は赤字になりますので、営利企業として住宅ローンビジネスを続ける意味がありません。
その結果、住宅ローン金利は「貸し倒れコスト30%+経費+資金調達コスト+利益」によって決められるわけですから、つまりはもし本当に貸し倒れが3割もあるなら、住宅ローン金利は「30%以上」にならないといけないということですね!そうなっていないということは、貸し倒れは3割もないということです。
それどころか「住宅ローン金利0.5%割れ」が意味するところは、実際の貸し倒れ率は0.1%や0.2%といったレベルであるということですね。
もちろん、引用元ではあくまで「住宅ローンを借りた人が契約どおりに返済できない」 人が3割と言っているわけで、それでも何等かの形で返済を続けていれば「貸し倒れ」とはなりませんし、また、仮に競売に掛けたとしても高値で売れて住宅ローンの元本と利息を100%回収できれば、やはり「貸し倒れ」とはなりませんので、「住宅ローンの延滞率は3割だけれど、住宅ローン金利が0.5%割れでも採算が合うケース」というのは理論上はあり得ます。
しかし常識的に考えれば、競売に掛ければ買い手にもリスクがあるためその売却価格は大きく下がるのが通例ですし、競売に掛けるためのコストも余計にかかります。さらには利用者がすんなり競売に同意してくれるかどうかも分かりません。もし揉めれば、売却価格はますます下がり、コストはますます増えることになります。
そうしたわけで「延滞住宅ローン」の割合が3割である一方、仮に「実際の損失額」はその3割にとどまるとしても、30%×30%=9%の貸し倒れコストが発生し、結果住宅ローン金利は「10%前後ないとおかしい」ということになります。
そうなっていないということは、住宅ローンの延滞率はそこまで高くはないということですね。
また、競売の増加について引用元では「今はどこの裁判所でも競売担当の部署は人でごった返している」の一言で片づナられておりますが、さすがにそんな印象論では全く説得力がありませんので、データをチェックしてみたいと思います。
いろいろ調ぺてみると、裁判所が公表している「司法統計」が良さそうです。恐らく最新データではないかと思われる2015年度の「民事一行政事件数」を見るとこのようになっています。
・担保権の実行としての競売 : 不動産21,007件
2015年度の融資にかかわる競売件数は2万1千件ということですね!
意外と多い気もしますが、では2015年度の住宅ローンの新規貸し出し件数はと言うと、意外と「件数」に関するデータはなさそうです。そこでまず「新規貸出額」
をチェ ックしてみると住宅金融支援機構のデータによれば20兆1,771億円となっています。
住宅ローンの新規貸し出しの平均額は2,000万円程度かと思いますのでそこから類推すると、新規貸し出し件数は約101万件ということですね。1年で新規貸し出しが約100万件生まれる一方で、競売が2万件生まれているわけですから、どう多く見積もっても「競売率=2%」にしかなりません。
上記引用元では「住宅ローンの未済、つまり住宅ローンを借りた人が契約どおりに返済できないというのが住宅ローン全体の3割近くに上っている」「未成の物件
は競売にかけなくてはいけない」とのことですから、その論法に立てば競売は毎年30万件くらい発生しないといけないということですね!もちろん到底そんなレ
ベルにないのは上記の通りですから、結局のところデタラメだということです。
一体、何を根拠に「住宅ローンの延滞は3割」と思ってしまったのでしょうねぇ。それをまともにチェックしないで引用するのもどうかと思いますが・・・。
なお、それでも「2%の競売率」というのは結構高いですが、その理由はおそらくこの競売の中には個人ローンだけでなく法人に対する融資も含まれているからですね。貸し出し件数自体は個人の方が多いのでしょうけれど、延滞→競売に至る確率は法人の方が高いものと思います。そこでざっくり「個人と法人とで半分半分」とすると、個人の競売数は約1万件=競売率約1%ということになり、そこから実際の銀行側の貸し倒れコストを上記計算式に当てはめて計算してみると「0.3%」となります。
仮定に仮定を重ねた試算ですが、これなら一応、住宅ローン金利が0.5%を切っていたとしてもギリギリ採算は取れそうです。当たらずとも遠からず、と言った推定になっているのではないでしょうか。
ついでに指摘しておくと「今はどこの裁判所でも競売担当の部署は人でごった返している」とのことですが、実際の競売数は下記の通りピーク時から4分の1になっているようですね!
つまりは閑古鳥が鳴いているということです。何をもって「人でごった返している」と思ってしまったのでしょうか・・・やはりデタラメということですね。うむむむ・・・。
最後に延滞率の具体的な水準について、フラット35の場合は2015年度でこのようになっています。
・破たん先 : 0.3%
・3ヶ月以上延滞先 : 0.4%
・3ヶ月未満延滞先 : 1.4%
本当に破たんしてしまうのは全体の1%以下ということですね。こうした方々の物件が最終的に競売に掛けられていくことになります。
参考になさってください。
<日本住宅ローンプランニング編集部>