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・・・管理費の長期滞納など、義務違反者と管理組合の間での裁判を見てみると、決して管理組合の立場は強くない。加害者と被害者それぞれが受ける利益と不利益の態様や程度をどう比較考量するかで判断が分かれるためだ。すべてにおいて義務違反者が必ずしも悪とは判示されない。管理組合にとっては悩ましい事態といえるだろう。そこで、管理組合が敗訴した裁判の事例をもとに何が判断の分かれ目となったのかを探ってみたい。
<判例その1>
まずは2002年に大阪高等裁判所で争われた、管理費等の滞納を原因とする専有部分の使用禁止請求が否認された裁判から見てみよう。
被告の区分所有者は1991年から2000年までの9年間、総額1348万円もの管理費などを滞納した。管理組合は共同の利益に反する行為であるとして、当該区分所有者の専有部分の使用禁止と滞納管理費の支払いを求めて提訴した。そして、第一審の大阪地裁(2001年9月5日判決)では、(1)共同の利益に反する行為に該当すると認められる、(2)管理費等の滞納と専有部分の使用禁止には一定の関連性がある、(3)弁済に対する心理的圧力となることから、専有部分の使用禁止を求める訴えは理由がある――として原告(管理組合)の請求を認めた。
ところが、これを不服として控訴した第ニ審(2002年5月16日判決)では、一転、管理組合の請求が否認される結果となった。「管理費等の滞納は期間および金額双方において著しいもので、共同の利益に反する行為に当たる」としながら、以下の理由により被控訴人(管理組合)の請求を棄却した。
1.専有部分の使用を禁止することにより、滞納管理費等を支払うようになる関係にあるわけではない。
2.専有部分の使用を禁止しても、他の区分所有者に何らかの利益がもたらされるわけでもない。
3.管理費等の滞納と専有部分の使用禁止には関連性がなく、専有部分の使用禁止を認めることはできないと解するのが相当である。
専有部分の使用禁止請求は、たとえば専有部分内で騒音や悪臭を発生させ、他の区分所有者に迷惑を及ぼす行動をしている、あるいは専有部分を暴力団事務所として使用し、周囲の居住者に恐怖を与えているなど、“積極的”に区分所有者の共同の利益に反する行為がなされている場合に認められる。
本件のような管理費等の滞納については、共同の利益に反する行為の態様がこうしたケースとは異なり、専有部分の使用禁止が認められるという関係にない。つまり、“消極的”ともいえる加害行為に対してまで専有部分の使用禁止請求を援用することは無理があるという解釈だ。さらに、「被控訴人は専有部分の使用禁止によって滞納管理費等の支払いが促進される効果がある旨を主張するが、そのような効果があるのかは定かでない」と言い切っている。
あくまで筆者の個人的な意見だが、全体的に理解しにくい控訴審判決という印象をぬぐい去れない。
<判例その2>
続いては2006年に東京地方裁判所で争われた、同じく管理費等の滞納を原因とする、今度は競売請求が否認された裁判を紹介しよう(2006年6月27日判決)
被告の区分所有者は2000年11月から2006年1月までの5年余り、総額169万円の管理費などを滞納した。そこで管理組合は支払督促を行ったうえ、被告の銀行預金を差し押さえて回収しようと試みたが、預金残高がなく回収は失敗。そのうえ被告は5年の間、支払い請求にまったく応じなかったという事情も加わり、いっきに区分所有法に基づく競売請求へと突き進んだ。
判決では、共用施設を維持管理していくことは区分所有者の共同の利益のために不可欠であり、その維持管理にかかる費用負担は区分所有者の最低限の義務と説明。長期かつ多額の管理費等の滞納は共同の利益に反する行為と認定し、これによって共同生活上の著しい障害が当該マンションで生じているとした。しかし、
1.競売は被告の区分所有権を剥奪し、区分所有関係から排除するものであることから厳格に解すべきであり、先取特権の実行その他、被告の財産に対する強制執行によっても回収できず、もはや競売以外に回収の途がないことが明らかな場合に適用すると解するのが相当である。
2.その点、預金債権以外の債権執行の余地がないかについては明らかとはいえず、いまだ本来の債権回収の方途が尽きたとまでは言えない。
3.本件訴訟において被告は長期間の滞納を謝罪するとともに、経済状況が好転したことから分割弁済による和解を希望する態度を示しており、和解の中で回収する途も考えられる。
として、管理組合による競売請求を棄却した。下表にあるように区分所有法では義務違反者に対して3つの措置が用意されており、その中で競売請求は最も厳しい罰則となる。そのため、管理組合が安易に勝利を勝ち取れないのは理解できるのだが、「債権回収の方途が尽きる」ことを条件として挙げている点は理解に苦しむ。共同の利益に反する行為と認定し、これによって共同生活上の著しい障害が生じているとしながら、なぜ管理費の回収を阻害するのか、そのバランス感覚が筆者にはよく分からない。
<編集部からのコメント>
マンションを購入しようと思ったときに気になるのが、居住者間でのトラブルですね。騒音やマナーなど、考えられるトラブルはいくつかありますが、その中の1つが、管理費や修繕積立金の滞納です。
それを取り締まるのが管理組合でありますが、警察や税務署などのような国家権力ではありませんので、どうしても払ってくれない場合は泣き寝入りしかないのかと思いきや・・・記者も不勉強でしたが、法的にはいろいろな手段が用意されているのですね。
具体的には上記の通りでありますが、以下3つの対抗手段があるようです。
1 共同の利益に反する行為の停止や差し止め
2 専有部分の使用禁止
3 区分所有権および敷地利権の競売
1はともかくとして、2の「専有部分の使用禁止」や、3の「区分所有権および敷地利権の競売」はなかなか強烈ですね。部屋を使えなくしたり、売却したりすることが可能ということですから、かなり強力な手段となりえます。
とは言えこれはあくまで最終兵器ともいえるわけで、上記記事ではむしろ管理組合側の訴えが通らなかったケースを解説しております。
最初の判例は、2の「専有部分の使用禁止」が否決されたケースですが、その理由としては以下の通りということですね。
・専有部分の使用を禁止することにより、滞納管理費等を支払うようになる関係にあるわけではない。
・専有部分の使用を禁止しても、他の区分所有者に何らかの利益がもたらされるわけでもない。
・管理費等の滞納と専有部分の使用禁止には関連性がなく、専有部分の使用禁止を認めることはできないと解するのが相当である。
どうでしょうか?ここだけを取り出すとちょっとおかしな判決と思わざるをえないですね。少なくとも専有部分の使用を禁止すれば、滞納管理費等を支払う強いプレッシャーとなりますし、他の区分所有者にも当然、利益がもたらされます。
特に「本当は払えるのに払わない」場合には有効ですね。
一方で「本当に払えない」場合もあるわけで、このケースはもしかすると後者と認定されたのかもしれませんね。その場合は確かに「専有部分の使用を禁止されても払えないものは払えない」ということになりますし、むしろ余計払えなくなる可能性の方が高いと言えます。
次の判例は、3の「区分所有権および敷地利権の競売」が否決されたケースでありますが、その理由は以下の通りということです。
・競売は被告の区分所有権を剥奪し、区分所有関係から排除するものであることから厳格に解すべきであり、先取特権の実行その他、被告の財産に対する強制執行によっても回収できず、もはや競売以外に回収の途がないことが明らかな場合に適用すると解するのが相当である。
・その点、預金債権以外の債権執行の余地がないかについては明らかとはいえず、いまだ本来の債権回収の方途が尽きたとまでは言えない。
・本件訴訟において被告は長期間の滞納を謝罪するとともに、経済状況が好転したことから分割弁済による和解を希望する態度を示しており、和解の中で回収する途も考えられる。
こちらは前の判例と比較すれば理解しやすいものですね。「競売」と言うのは最終兵器なわけなので、その行使はより慎重でないといけない、という主旨であります。
上記ケースはいずれも管理組合が負けた判例であり、もしかすると「管理組合は弱い」とういネガティブなイメージを持たれた方もいるかもしれませんが、記者は逆にそういった法的な対抗手段があるということを知り、むしろとてもポジティブな情報のように感じました。
共同生活をする上では、当然、責任と義務が発生するものであってタダ乗り=フリーライドを認めてはいけません。管理組合に相応の力を持たせるというのは当然のことでしょうね。