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<編集部からのコメント>
最近では徐々に減ってきているような気もしますが、それでもまだ有識者の間で根強いのが、 「住宅ローンの変動金利タイプは危険だ」という論調です。
当サイトをご愛顧いただいている読者の方はご存知の通り、記者自身は変動金利に対してはややポジティブに評価するスタンスではありますが、ただもちろんこうした金利タイプ選びは最初から「正解」が用意されているものではありません。
支払い金利が最終的に多かった・少なかったというのは結果論にしかすぎません。その点では、ある意味、「利用者が納得できたものが正解」と言えるわけですが、一方で肝心なのはそうした判断がそれなりに合理的な根拠に基づいて行われているかどうか、という点ですね。
上記のような「住宅ローンの変動金利タイプは危険だ」という指摘には合理的な根拠がないものや、首をかしげたくなるものも多く、記者はついつい過敏に反応してしまいます。
そんなわけで今回も「住宅ローンは変動金利で借りてはいけない」 という、なかなか扇動的な題名のコラムを見つけましたのでその根拠を拝聴したいと思います。
変動金利で借りてはいけない理由をまとめてみるとこういうことですね。
1.変動金利は5年間は支払金額が変わらないので、その期間に金利が上昇すると元金が予定通りに減らなくなる。
2.金利が上がったら固定に切り替えようと考えている人もいるが、変動金利よりも固定金利の方が金利が高いので、条件変更をすると支払いが上がってしまう。その後の選択肢を失ってしまう。
3.変動金利は金利下降局面で選択するのが鉄則だと言われるが、もう十分金利は底で上昇はしても下降局面でもない。
いかがでしょう?もっともらしい気もしますが、一方でデメリット面のみが強調されすぎている気もしますね。そんなわけで、筆者の方の反論もあろうかと思いますが、1つ1つ見ていきたいと思います。
まず1については特に「借りてはいけない理由」にはならないですね。金利が上昇すれば住宅ローン利用者の負担が増えるのは当然ですが、毎月の支払額が思いがけず増減して家計に大きな影響を与えないよう、変動金利タイプの場合、5年間は支払い金額が変わらないルールとなっているのが一般的なわけです。
言い換えれば、突然毎月の住宅ローン返済額が増えるリスクを「消している」わけで、むしろ変動金利タイプを借りてはいけないかもしれない理由の1つを「消している」ということでもあります。積極的に評価してよさそうです。
次に2についてですが、確かに毎月の返済額が増えるのは困るわけで、いくら金利上昇したとしてもその時には固定金利も同じように上昇していることが予想され、変動金利から固定金利に切り替えることにより、ただでさえ増えてしまった毎月の返済額がさらに増えてしまうのは、かなりの精神的な苦痛であることは容易に想像つきます。
その点では金利上昇時に「選択肢が狭まる」という指摘は大いに賛同できる面があります。
ただし、だからといって変動金利で借りてはいけない=固定金利で借りましょう、というのは大きな矛盾があります。と言うのも、最初から固定金利で選ぶのだとしても、やはりその時点でも変動金利より固定金利の方が金利が高いわけで、固定金利タイプを選ぶということは、より多い住宅ローン返済額を許容しないといけないということになるからですね。
つまり、 住宅ローン利用者が毎月の返済額が増えることが許容できず選択肢を失うのだとすれば、そもそも最初から変動金利タイプを選ぶしか選択肢はない、ということを言っているのと同じなわけです。
したがってこれもまた、変動金利で借りてはいけない理由とはなりそうにありません。
最後に3の「変動金利は金利下降局面で選択するのが鉄則だと言われるが、もう十分金利は底で上昇はしても下降局面でもない」という指摘はいかがでしょう?
これは申し訳ないですがあまり正確な表現とは言えませんね。
変動金利は金利下降局面ばかりか、金利が安定しているときにも十分魅力的です。というのも一般的には変動金利は固定金利より低いわけで、金利が安定してさえいれば変動金利が固定金利より低く、有利な状態がずっと維持されるからですね。
また、多少金利が上昇したとしても、その上昇幅が借り入れ当初の固定金利の水準を下回っていれば、やはり「変動金利で借りておいてよかった」ということになります。
つまりまとめるとこういうことになるでしょうか。
・金利下降局面 : 変動金利の勝ち
・金利安定局面 : 変動金利の勝ち
・金利上昇局面(小幅) : 変動金利の勝ち
・金利上昇局面(大幅) : 固定金利の勝ち
変動金利が勝つパターンというのはグッと多いことが分かります。
加えて「十分金利は底」 という指摘は正しいと思いますが、だからといってそれが即ち「これから金利が上がる」とつなげるのは乱暴ですね。そのまま低金利がいつまでも続く、という状況も十分考えられます。実際、日本の金利はバブル崩壊以降、20年以上低い状態が続いているわけです。
さてここからは、こうした一般的な「変動金利危険説」に対する、記者の不満を3つ述べたいと思います。
まず1つ目は、これまでの金利動向を全然押さえていない、という点ですね。こうした「変動金利危険説」では、「金利が2%上昇した場合」や「金利が3%上昇した場合」といったケースがあっさり、さも当然かのように書かれている場合が多いのですが、10年もの金利=長期金利すら、2000年以降で一度も2%を超えていないのですね!
「何が起こるかわからない」のが経済というものであるわけですが、少なくともこれもまでの金利動向から推測する限り、「金利が2%上昇した場合」・「金利が3%上昇した場合」が起こる可能性というのは限りなく低いことが分かります。
2つ目の不満は、「変動金利の金利水準は間接的に日銀が決定している」というメカニズムが押さえられていない点です。固定金利は基本的に長期金利を代表とする市場金利の動きに連動するわけですが、変動金利は「短期無担オーバーナイト」といった極めて期間の短い金利に連動しています。
そしてこうした極めて期間の短い金利については、公定歩合などと同様に、日銀の金融政策によって完全にコントロールされているのですね。たまに「日銀のゼロ金利政策」というフレーズを耳にしますが、では何が「ゼロ金利」かと言うと、まさにこうした期間の短い市場金利がほぼゼロに抑えられているのです。
これはつまり、変動金利が上昇する時=ゼロ金利政策が解除される時、ということであり、自然発生的に起こるものではなく、日銀の明確な意思決定によって起こるものということです。
何が言いたいかと言えば、人為的にコントロールされている以上、将来的にゼロ金利政策を解除する状況が整ったとしても、多くの住宅ローン変動金利利用者が困窮したり混乱したりするような急激な金利上昇は起きない・起こさない、ということです。
仮にゼロ金利政策を解除して経済が失速すれば、一番困るのは日銀自身ですからね。それこそ半永久的にゼロ金利が維持される可能性もゼロではありません。
そして最後に3つ目の不満は、なるほど今後金利が上昇する可能性がゼロではないとして、なぜその後に金利が再低下する可能性を織り込まないのか、という点です。
上記の通り、「金利が2%上昇した場合」・「金利が3%上昇した場合」というのはあっさり仮定する一方で、その後に金利が再び低下する可能性について指摘される方は皆無なのではないかと思います。
しかしながら株価と同様、金利もまた景気に歩調を合わせて上がったり下がったりします。上記の長期金利の推移を再度見てもらえば分かるとおり、2000年のITバブルのころや、2006年ごろの平成景気のときは金利が相対的に高い一方で、それ以外の時期は金利は低水準にあります。
もし将来的に仮に金利が上昇するとしても、そうした金利上昇が未来永劫続くと考えるのはナンセンスですね。上昇した金利はいつか低下するものであり、だとすれば変動金利の金利上昇リスクというのが過大評価されすぎているのではないか、と思ったりするわけです。
冒頭ご案内したように、こうした住宅ローンの金利タイプ選びというのは決して正解があるような筋合いのものではなく、自分が納得できればそれでいい、という面もあるわけですが、それでもやはり、相応に合理的な根拠・認識に基づいてご判断いただければと思います。
参考になさってください。