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<編集部からのコメント>
どこで読んだか忘れましたが、「<世帯年収355万円 私たちマンション買っちゃいました!>の広告が酷すぎると話題に」という記事を見かけました。検索するとこういう広告のようです。
以前はもう少しキレイな写真を見たような気がしますが・・・記憶違いかもしれません。
さてその内容ですが、平均年収が400万円前後の時代ですから、世帯年収355万円でマンションを購入することはもちろん可能です。
ただ問題は、世帯主の年収が355万円ということではなく、28歳男性/215万円+27歳女性/140万円=355万円という「合算」になっている、ということですね。
片方の年収が355万円で、片方がゼロもしくは小額という組み合わせであれば、万が一の場合でも後者がそれなりに本気で働けば住宅ローンや家計の破綻を回避することができます。
つまりはそれなりにバッファ=余裕があると言えるわけですが、一方、上記のように両方がフルで働いている状態=バッファがない状態で、多額の住宅ローンを組むということに対して不安を感じるのは当然ですね。
この写真からはどういった金額のマンションを買うのかは定かではありませんが、よっぽど低い値段でなければ、子どもの出産などで女性の収入が減少したときや、病気・リストラなどの理由で片方の収入が途絶えたときに家計が回らなくなるのは間違いなさそうです。
さらにもう1つ、この広告における問題点を指摘するとすれば、男性が「夫」ではなく「彼」となっている点ですね。
婚姻関係にない場合に、そもそも住宅ローンの審査時に収入合算の対象となるのか微妙ですが、仮に審査に通ったとしても、関係が終わる=返済計画が破綻する可能性が高く、やはり「時期尚早」といわざるを得ません。マンションを買う前にすべきことがある、ということですね。
そんなわけでマンションの購入価格にもよりますが、一般論から言えば、かなり心配になってしまう上記の借り入れ例であり、「広告が酷すぎると話題に」なることもよく理解できますが、ネットで検索してみるとその後に続く、具体的な購入事例が掲載されていましたので引用したいと思います。
ちょっと倍率が小さくて申し訳ないですが、購入物件は・・・2,693万円ということです。結構な金額ですね!
世帯年収からすれば、7.6倍ということで・・・無謀な借り入れであるのは間違いありません。かなり以前の記事になってしまいましたが、こちらのコラムでもご紹介したように、よりリスクの少ない借り入れ金額は、年収の「3.75倍」ということですね。
>>>年収の何倍まで借りられるの?住宅ローン借入限度額について
具体的には、年収400万円の場合の購入可能な物件価格は「1,507万円」とされており、そこからすれば2,693万円というのは無茶を通り越して「無茶苦茶」ということになります。
もちろん、浪費を抑えていくらでも貯金ができる節約体質の方であれば問題ないのかもしれませんが、であれば相応にすでに頭金がたまっているはずで、上記のように2,693万円の物件に対して2,600万円の住宅ローンを借りるというのは非現実的ですね。
加えて月々の返済額は74,377円ということですが、これは変動金利=0.875%という水準が35年続くという前提でありこれまた非現実的です。
そもそも「結婚していないカップルが収入合算した上で世帯年収の7.6倍の住宅ローンを借りる」という時点で、「最優遇金利」である0.875%で借りられるわけがありません。審査に落ちる可能性が高いですが、仮に審査に通ったとしてもリスクに見合った金利=1.275%や1.475%といった形になりそうですね。
そこに金利上昇リスクが乗っかるわけですから・・・やはり「無茶苦茶」ですね。
このチラシにはさらに2つ大きなツッコミどころがありますが、まず1つ目は住宅ローン減税の効果を月21,666円としている点です。
「2,600万円の1%だから年26万円=月21,666円でしょ?」と思われるかもしれませんが、住宅ローン減税はあくまで「減税」ですのでそれ以上に税金を払っていないと差し引けません。
そして所得税や住民税は収入が低ければ低いほど税率が軽くなりますから、減税枠を余らせてしまうのが一般的です。つまりこのようにフルに恩恵を受けられる可能性は極めて低いということですね。
2つ目は「賃貸にすれば月8.6万円もプラスになる」、としている点です。
すでに指摘させていただいたように、毎月の住宅ローン返済額が74,377円というのも非現実的ですが、それはさておき賃料収入が妥当か検証したいと思います。
そうしたキャッシュフローがプラスとなる根拠は、賃料が16万1,000円になることが期待できるから、ということですが、そもそもその下に注意書きとして記載されているように周辺の3LDKの相場が「9万円〜20万円台」ということであれば平均14万5,000円前後になりそうなところ、なぜ16万1,000円なのでしょう?
また、一般的には賃貸の利回りは5%〜7%と言われており、間をとって6%だとすると月13万5,000円ということになります。
そして空室率を10%、管理費・修繕積立金を月1万5,000円程度とすると残るのは月10万6,000円ですね。
さらに税金も加味すれば正味、月10万円というところでしょうか。
しかし残念ながらそれでは終わりません。建物が経年劣化するに従い、賃料も下がっていくからですね。仮に築40年もすれば借り手がいなくなるとすれば年間2.5%ずつ賃料が下がる計算となります。
単純計算すれば賃料は10年後には月10万1,250円まで下がるということですね。一方、管理費や修繕積立金は変わりませんから(むしろ修繕積立金は増えていると思いますが)、残るのは7万6,125円。税金も加味すれば毎月の返済額74,377円と「ほぼトントン」になるということです。
言い換えれば・・・賃貸にまわしたとしても10年後にはキャッシュフローがマイナスになってしまうのですね!そしてそれ以降、どんどん出費の方が多くなっていってしまうということです。
もちろん、別途、どこかに住んでいるわけですから自分たちの住居コスト(賃料)もかかっているわけで、「いざとなれば賃貸にしてもOK!」どころか、「いざとなれば絶対住まないといけない!」ということになります。自分たちで住むかぎり少なくとも空室率は0%になりますからね。
実際、マンション投資で儲けた人の話は聞きませんし、不景気になると真っ先に倒産するのが投資用マンション販売会社ですからね。マンション投資の実情=長期的に儲けるのは難しいという現実を如実に表しています。
つまり・・・このチラシを作成した方というのは、こうした不動産の知識がほとんどないか、知っていながらあえて不正確・不誠実な広告で消費者を騙そうとしているのかのどちらかとなりますね。
というわけで販売会社を見てみると、何と東証一部上場のP社(株式コード:3254)ですね!もちろん不動産のプロフェッショナルですから残念ながら前者ではなく「後者」、ということになります。
上場企業がまだこんな広告を出しているとは・・・いやはや、日本の不動産業界の「闇」は深いですね。
ただし。
前回のコラムでご案内したように、住宅ローン業界全体の「破綻率」はそれほど高くはありません。
>>>住宅ローンの破綻率は実際のところ、いくら?
そう考えると、住宅ローンの審査というのはかなりしっかりしていて、「無茶」や「無茶苦茶」な内容の申し込みはきっちり選別していると考えることもできそうです。言い換えれば、銀行の審査が消費者の「セーフティネット」になっている一面があるのかも・・・しれませんね。
ある意味、皮肉なことではありますが。
最後に、上記引用した記事では筆者の方が「選ばないほうがいいかな思う理由は1つになりました」とのことですが、それは何かと言うと「同じマンションに住む、他の家の破綻リスクが高い」という点ですね。
記者自身は当初、あまりこのリスクにピンと来ておりませんで、そうした破綻リスクはどのマンションでも同じなのでは、と思っておりましたが、このマンションが上記P社によって建設・販売されていることを知り考えが変わりました。
つまり一棟丸ごと、同じような販売手法で売られているのだとすれば、結果的に「騙されて」購入してしまった人の割合が増えてしまうからですね。
マンションを購入するときは、その販売会社やその販売手法にも注意する必要があるということでしょうか・・・。
参考になさってください。