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<編集部からのコメント>
今年もあっと言う間に年の瀬ですね。さて12月と言えばボーナスシーズンであり、消費意欲が大いに高まる時期ですが、それに加えて各金融機関がそうしたボーナス資金の取り込みを狙って積極的な資産運用キャンペーンを実施する月でもあります。
分かりやすいのは定期預金キャンペーンですが、それ以外にも金融機関は各種のキャンペーンや新商品を投下し、1円でも多く運用してもらおうと対策に余念がありません。
加えて金融市場でも円安株高が進んでおり、投資を始めるのに絶好の市場環境のようにも感じますね。また、12月の衆院選で自民党が大きな勝利を収めれば、安心感や期待感からもう一段の円安や株高が進む可能性も結構高そうです。だとすれば、ボーナス資金を単純に繰上返済に回すのではなく、運用で殖やしてからにしたいと考える住宅ローン利用者の方がおられても不思議ではありません。
ではボーナス資金を住宅ローンの繰り上げ返済に回すのと、資産運用に賭けるのとどちらが良いのでしょうか?
理屈の上では話は簡単で、「確実に住宅ローン金利以上に利益を出せるのであれば資産運用が良く、そうでないなら住宅ローンの繰り上げ返済が良い」ということですね。
で、住宅ローン利率が1%にしても、2%にしてもこれらは「年利」ですから、毎月の利息は元本の0.1%や0.2%程度ということになります。であれば1ヶ月でそれ以上のリターンを出すのは簡単そうですね。
仮に日経平均が17,000円とすると0.1%なら17円、0.2%なら34円上昇するだけで「資産運用の勝ち」ということになります(実際には売買手数料や税金がかかるのでもう少し勝つ必要がありますが)。
だとすると「住宅ローン金利を上回る利益を出すことは容易であり、住宅ローン利用者は積極的に資産運用してよい」という結論になりそうです。果たしてこれは正しいでしょうか?
これまた理屈の上では結論は簡単で「ノー」ということになります。
繰り返しになりますが、前提条件として「確実に住宅ローン金利以上に利益を出せるのであれば」 と述べました。実は教科書的には「確実に住宅ローン金利以上に利益を出す」のは不可能なのですね!
資産運用の世界における大原則として「リスクとリターンは比例する」、というルールがあります。極端に言えば、リスクがゼロならリターンはゼロ、逆にリターンが10%なら、リスク=元本を失う可能性も10%くらいある、ということですね(これはあくまでイメージで、実際にはリスクがゼロでも定期預金金利分くらいは残りますが、議論をシンプルにするために割愛させていただきます)。
とすると年利1%〜2%の運用リターンを狙っていくなら、単純化して言えば年間1%〜2%の元本割れリスクを許容することになるのです。
上記日経平均の例でいえば、確かに17,000円から17,034円に上昇すれば住宅ローンに勝てる可能性がありますが(繰り返しになりますが税金や手数料は考慮しません)、同じくらい17,000円から16,966円に下落する可能性があり、もしそうなっても住宅ローン金利はびた一文減りませんから、1ヶ月で考えると住宅ローン金利月利0.2%+投資損0.2%=0.4%もの「負け」になるということですね。
他方、住宅ローン繰上返済はどうかと言うと、まずリスクはゼロですね。繰上返済を依頼すれば確実に住宅ローン元本が減ります。「繰上返済してもたまに元本が減らないことがある」なんていうリスクはあり得ません。
一方でリターンは確実です。繰上返済すれば、その分だけ支払利息は年1%や2%といった住宅ローン金利分だけ確実に減ります。つまり、住宅ローンの繰り上げ返済とは「ノーリスク・ハイリターン」・・・とまでは言えないものの「ノーリスク・ミドルリターン」くらいの実感がある運用方法であるのは間違いありません。
資産運用でミドルリターンを実現しようと思えば必ず「ミドルリスク・ミドルリターン」となります。一方、住宅ローンの繰り上げ返済は「ノーリスク・ミドルリターン」なわけですから、合理的に考えて資産運用を選ぶという選択肢はあり得ません。
そんなわけで教科書的には勝敗はハッキリしています。「住宅ローン繰上返済の圧勝」ということですね。実際、住宅ローンの繰り上げ返済は「最強の資産運用」とも言われています。
ただいくら「教科書ではそうだ」と言われても実感としては納得できないかもしれません。実際に株価は上昇し、資産運用で大きく儲けている人が実在するからですね。
そうした場合は株価の長期的な推移を見るのが良いかもしれません。日経平均は過去30年でこのように推移しています。
ここ最近の株価上昇でかなり様になってきてはいるものの、全体的に見ればなだらかな「右肩下がり」になっていることがわかります。これはつまり平均的には、日本株投資は「30年間、負け越している」ということを示唆しています。
もちろんそうした中にも上昇する局面はあり、うまくそういう相場で「逃げ切れた」人は単純に繰上返済している人よりも良い結果を出せているかもしれません。
しかしながら、理論的にはそうした「上昇局面だけで運用する」というのは不可能ですね。株価は、とくに短期的には上がるのも下がるのもほぼランダムに動いており、勝てる確率は50%・50%です。勝率を上げるためには長期投資が必要ですが、日本株の場合はその長期投資が負けているわけで勝てる可能性は極めて低いということです。
さらに株式投資で難しいのは「勝ち逃げ」することが心理的にかなり困難な点ですね。儲かっていれば「まだまだいける」と思って逃げるタイミングを失いますし、
損をすればさらに逃げ出すことは難しくなります。
加えて、仮にうまく勝ち逃げできたとしても、能力を過信して、再度投資してしまうのは間違いないと思います。そうやって投資回数や投資期間が増えれば増えるほど平均に近づいていくわけで・・・つまりどこかで「負け越す」可能性が高いということですね。
そんなわけで理論的にも心理的にも資産運用で住宅ローン金利以上のリターンを継続的に実現するのは難しく、ボーナスなどの余裕資金があれば素直に繰上返済に回すのが最も合理的な選択ということになります。
ちなみに上記で引用した、αブロガーのぐっちー氏は全く別の観点から、住宅ローン利用者は「資産運用が不可能」と指摘しています。要約するとこういう感じでしょうか。
・終身雇用制度が崩れ、住宅価格が今後下がることが予想される中で、多額の借金をして住宅を購入することは、借金をして競馬にカネを突っ込むのと同じ。資産運用などを考えている暇はないはず。
いかがでしょう?偏見に満ち満ちていますね(笑)。
住宅購入は競馬と違って「全額スル」ということはありませんし「平均的に必ず負ける勝負」というわけではありません(しかも平均的に「かなり」負けます)。
どこかで住まないといけない以上、比較対象は賃貸ということになりますが、これについては数多くの識者が指摘しているように、勝率は五分五分です。つまり勝つ場合もあれば負ける場合もあるという点で競馬とは全く異なりますね。
また「完済できること」を勝ち、「ローン破綻すること」を負けと定義するのであれば、勝率は極めて高いです。住宅ローンの破綻率は公表されていませんが、参考になるのは保証料かもしれません。保証料は概ね年0.2%相当ですから、銀行の焦げ付きがその範囲内に収まっているとすれば、「勝率」は99.8%前後ということになります。
もちろん実際には、「焦げ付くまでは行かないものの住宅ローンを返済しきれず住宅を手放さざるを得なくなった人」はそれよりはるかに多いのでしょうけれど、それでも数%の範囲内でしょうね。
つまりは「住宅ローンを組んでマイホームを購入する」という投資がそんなに危険なものかと言うとそうではないということです。ある意味、「空室リスクがゼロの不動産投資」ですからね。
確かに空家率は増え続けておりますし、人口の減少とともに住宅価格が下がる可能性はありますが、とは言いつつある日、いきなり不動産価格が10%や20%も下がるということはなく、平均すれば年率1%とか2%といったレベルではないかと思います。人口の減少率がそんなに高いわけではないですからね。
だとすると、住宅購入のリスクを過度に恐れる必要はないと思うのですがいかがでしょうか?
ただし、議論のプロセスはともかくとして、結論である「住宅ローンを組んで持ち家をお持ちの方は、とにかくどれだけ早く借金を返すかを考えるべき」という点は100%アグリーです。
参考になさってください。