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<解説・異論・反論>
世の中、「不要不急」な記事、ニュース、番組、雑誌は数多くあれど、中でもその代表的なものと言えばやはり週刊誌の記事ではないかと思います。もちろん、愛読者の方々を否定するつもりはありませんし、一定の読者ニーズを射抜いているという点では「世の中の鏡」としての機能もあるかもしれません。
みんながみんな、24時間いつも高尚な記事を読み続けたいわけではありませんからね。息抜きしたい時に週刊誌に目を通す、という方は少なくなさそうです。
また、出版不況が続く中、それでも部数を維持するために涙ぐましい努力を重ねているのではないかと思いますので、そのマーケティング手法については学ぶべきものがある可能性があります。
とは言いつつ。
いくら週刊誌の存在価値を擁護したとしてもその記事の信憑性を認めるものではありません。要するに週刊誌の記事というのは概ねデタラメで嘘ばっかり、ということですね。思い込みや拡大解釈、過剰演出がなければ、大手メディアと比較し情報ソースが限られる中、センセーショナルな記事など書けるはずもありませんので、あくまで週刊誌の記事というのはエンターテイメントとして、あまり信憑性に目くじらを立てず、笑って読み飛ばすというのが大人のたしなみ、ということになるのではないかと思います。
週刊誌が訴える「Xデイ」などこれまで一度も来たことがありませんからね。
そうした点では上記の「国際ルール変更で銀行が住宅ローンを抑制する?」というやや扇動的な記事も、ご多聞に漏れず「話半分」で聞くべきものということになります。
ただ読み飛ばすには個人的に引っかかってしまったのが2点あり、1つ目はこれが週刊ポストや週刊実話などではなく、朝日新聞系列であり週刊朝日の記事であるということ、そしてもう1つは著名な経済評論家である荻原博子氏が賛同するコメントを出しているという点ですね。マジですか。
そうしたわけで、記事の内容を詳しく見ていきたいと思います。そもそもバーゼル委員会とは何ぞや、ということですが、正式名称はバーゼル銀行監督委員会であり、国際的な銀行の規制監督当局ということですね。
そのバーゼル委員会が設定するのが金融機関の国際ルールである「バーゼル規制」ですが、ちょうど今その内容の見直しを行っているようですね。中でも住宅ローンにかかわることについては2つの大きな見直しがあるようです。
1つ目は保有国債のリスク管理の厳格化で、要するにこれまでより保有国債の金利変動リスクに対してしっかりした備えが求められるわけで、銀行にとってみれば国債を保有することが、より負担になることを意味します。
仮に主要銀行がそうした規制強化を受けて国債を売り急げば、国債価格が下落し、金利が急上昇する可能性がある、ということですね。
2つ目は住宅ローンのリスク管理の厳格化で、こちらもこれまで以上に備えが求められるとすれば、銀行としては住宅ローンの貸出を絞るか、あるいはコストアップを顧客に転嫁し住宅ローン金利の上昇を図るか、ということになります。
そうしたことを背景にまず「名無しのFP氏」のコメントがこのように紹介されています。
「住宅ローン債権がリスクの対象とみなされれば、銀行は積極的にお金を貸すことができなくなります。」
また後段の金利上昇リスクについては、件の萩原女史がこのようにコメントしています。
「人生設計を描けなくなる若者が続出する。」
「住宅業界では、東京五輪が終わったら土地の値段は暴落すると言われているわけですから。金利の問題を差し置いても、既に住宅を購入した人は、一刻も早くローンを払い終えなければなりません。」
・・・こうして読むと、萩原女史は今回のバーゼル規制については全く論評していないのかもしれませんね。あくまで一般的な金利上昇リスクについてのコメントが編集部によって適当に切り貼りされただけのようです。だとするといい加減な記事の被害者という面もあるのかもしれません。まぁ、そこは持ちつ持たれつなのでしょうけれど。
一方で、「東京五輪が終わったら土地の値段は暴落する」というコメント内容についてはもう少し深堀したい気もしますが、本題ではありませんので置いておきまして、ではバーゼル規制が強化されれば本当に金利が上昇し、住宅ローンが借りにくくなるのでしょうか?
答えは当然ですが、ノーでしょうね。
ご存知の通り異次元の金融緩和によって日銀が国債を大量に買い続けています。このままいけばもう売り物がなくなると心配されるほどです。仮にバーゼル規制の強化によって大手銀行が国債を売却しても日銀がすぐに吸収してしまうでしょうから金利上昇余地はありません。
実際、これまで大手銀行の国債保有残高は徐々に減少しているわけですが、金利がその間も順調に低下し続けてきたというのはみなさんご存知の通りです。
「金融緩和が終われば金利が上昇するか」と聞かれれば答えはYesでしょうけれど、「バーゼル委員会のルール変更で金利が上昇するか」と聞かれればやはり答えはノーでしょうね。
また、後段の規制強化によって住宅ローン融資が厳しくなる、というのはどうでしょうか?
これもないでしょうね。運用難の時代、住宅ローンは数少ない安定的な資金需要ですから、縮小させるというよりは自己資本を厚くして備えを拡大させるという選択肢しかなさそうです。おりしも株式市場は絶好調ですからね。銀行の増資を受け入れる余力は十分にあります。
加えてそもそも論ですが、このバーゼル規制というのは「国際的に活動する銀行の自己資本比率や流動性比率等に関する国際統一基準」ということです。つまり国際的に活動しなければ、この規制を直接的に受けることはないのですね!
つまりこうした規制強化の影響を受けるのは基本的にはメガバンクなどの大手銀行にとどまるということです。
翻って住宅ローン業界に目を向ければ、魅力的な金利を提供しているのはネット専業銀行や新規参入銀行などの「国内組」ですね。だとすると尚更こうした規制の影響は受けない、ということですね。
むしろそうした「国内組」はバーゼル規制の強化=メガバンクの住宅ローン縮小が期待されるということで本音では歓迎しているのかもしれませんね。実際にはメガバンクが住宅ローンを縮小することはないと思うのは申し上げた通りですが。
そんなわけで、そもそも週刊誌の記事ですから、真面目に論評する必要もなかったわけですが、一抹の不安を感じていた方は参考になさってください。