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<解説・異論・反論>
記者個人としてはそろそろ食傷気味ではあるのですが、他に目ぼしいニュースもありませんので今回も住宅金融支援機構の「民間住宅ローン利用者の実態調査」から住宅ローンの金利タイプに関する最新の調査結果について取り上げたいと思います。
その前の前提情報として、各種公的調査が明らかにしているように現状の住宅ローンの金利タイプはおおむねこのようなシェアとなっています。
・変動金利タイプ : 60%
・当初固定金利タイプ : 30%
・全期間固定金利タイプ : 10%
中でも貸し出し実績から見て苦戦を強いられているのが一番最後の全期間固定金利タイプですね。全期間固定金利タイプとはその名の通り、最初から最後まで金利が変わらないタイプですが、金利上昇リスクがない代わりに他の金利タイプと比較すれば割高な金利となっています。三菱UFJ銀行の保証料を含めた今月の「実質金利」はこのようになっています。
・変動金利タイプ : 1.175%
・当初固定金利タイプ(10年) : 1.450%
・全期間固定金利タイプ(30年) : 1.990%
変動金利タイプをベースにすれば、約0.7%割高になる、ということですね。これはいわば「保険料」のようなものと考えられますが、ではこの保険料が「報われた」ことがあったかと言うと、残念ながらバブル崩壊以降の約25年の間、一度も報われたことがありません。
と言うのもずっと金利が低下し、長期金利より短期金利の方が低い状態が続いているからですね。こうした割高な金利が報われるためには短期金利が以前の長期金利を上回る水準まで上昇する必要がありますが、日銀が金融緩和を常態化させている現状では特に短期金利については上昇する余地は全くありません。
だとすれば冒頭ご案内したように変動金利タイプが人気となるのも当然ですが、では住宅金融支援機構の調査結果はどうなっているかと言うとこうなっています。
完全に予想できておりましたが、全期間固定金利のシェアが約3割という「ありえない水準」になっているのですね!別のコラムでもご案内しましたが、全期間固定金利の代表的な商品であるフラット35の貸出金額は2013年4−12月期と比較すれば2014年4−12月期は2割以上減っているわけですが、それでもこの調査では全くシェアを落としていないばかりか、むしろ増えている点に苦笑を禁じえません。
>>>住宅ローンで人気の金融機関、不人気の金融機関はどこ?新規貸出額推移
そんなわけでこのシェア調査自体は全く信憑性がありませんので、今回は少し視点を変えて「年齢別」「年収別」の金利タイプ利用状況をチェックしたいと思います。まず年齢別の金利タイプはこうですね。
次に年収別の金利タイプシェアはこう。
もちろん全体の数字に信憑性がないわけですから、個別に分解しても信憑性が出てくるわけではないものの、ただ数字はともかくとして全体的な傾向については手心が加えられていないとすれば上記調査結果から浮かび上がってくるのは
・若い人ほど変動金利を選ぶ
・年収が相対的に低い人ほど変動金利を選ぶ
という実態ですね。全体的に見れば年収カーブは年齢に比例するわけですから、若い人=年収が相対的に低い人であり、同じ結果となるのは当然と言えるかもしれませんが。
それはともかくとして、ここで思い出されるのが専門家のいつものアドバイスですね。つまり「若い人は借入金額が多く、借入期間も長い。低所得者の人は金利上昇に対する抵抗力が弱い。なのでどちらも全期間固定金利を選ぶべき。」という指摘です。
もちろん理屈としては筋が通っていますが、しかしここには重大なポイントが抜け落ちていますね。つまり冒頭ご案内したように「全期間固定金利はそれ以外の金利と比較して高い。」という点です。
要するに「あなたは若くて年収が低いから、より多く金利を払いなさい」と言われているようなもので、全く心にも響きませんし、腹にも落ちません。ちなみに2,000万円×30年の住宅ローンを考えた場合、それぞれの金利タイプの毎月の返済額はこのようになります。
・変動金利タイプ : 1.175% → 65,948円
・当初固定金利タイプ(10年) : 1.450% → 68,545円
・全期間固定金利タイプ(30年) : 1.990% → 73,823円
約66,000円と約74,000円ですから・・・相当な差ですね!毎月8,000円の差があれば生活の余裕がかなり変わってきます。しかもどちらも同じ「2,000万円×30年」の住宅ローンなわけで、「同じものを借りて値段が違う」という現実に違和感を感じる方も多そうです。
そんなわけで専門家のアドバイスにあまり説得力がなく、若い人や低所得者層が変動金利タイプを積極的に利用する気持ちはよく分かります。記者も間違いなく同じ選択をします。
ただ一方でこうした方々の金利上昇リスク耐性が「当面は低い」のも間違いありません。では金利タイプでリスクコントロールするのが現実的ではないとするとどこでリスクコントロールすればいいのでしょうか?
ありきたりな回答で恐縮ですがやはりそれは「借入金額」ということになるのでしょうね。たとえば上記試算の例で言えば「毎月約66,000円なら返済できそう」だとします。
その場合、そこから借り入れ可能な「2,000万円×30年」を目いっぱい借りるのではなく、全期間固定水準=1.99%まで変動金利が上昇しても66,000円に収まる借入金額にする、ということですね。具体的には1.99%でも毎月の返済額を約66,000円におさめようとすると借入金額は1,800万円ということになります。1割の減額ですね。
ただ実際には変動金利=1.175%で借りますので毎月の返済額は約59,000円となり毎月約7,000円浮くことになります。
で、これを生活費に充ててしまってはダメですね。あくまで金利が上昇した時でも返済していけるための余裕部分ですから、これは住宅ローンの返済に充てなければいけません。具体的にはこの約7,000円は「繰上返済に回すべき」、ということです。
では毎月7,000円繰上返済していくとどういう効果があるかと言うと・・・
・支払利息削減額 : −43万1,000円
・返済期間の短縮 : −3年8ヶ月
何と返済期間が約4年も縮まるのですね!30年の返済期間が約26年になるということです。この違いは大きいですね!
そうしたわけでまとめるとこういうことになります。
1.毎月の返済可能金額を算出する(現在の賃料等)
2.1の結果から、全期間固定金利で借りた場合の借り入れ可能額を試算する
3.2の結果から算出された金額を「変動金利」で借りる
4.3によって「浮いた金額」を生活費に充てずに繰上返済に回す
つまりは「変動金利で借りるけれど、全期間固定金利で借りていることにする」ということですね。
この方が住宅ローン金利上昇に対するリスクヘッジとしてはよっぽど現実的な気がするのですがいかがでしょう?
もちろんそれにより借り入れ可能金額が減るわけで「貧乏人は我慢しろと言うことか。」と思われるかもしれませんがそうではありません。そもそも上記の例で言えば借入金額の削減は1割にとどまっているわけで半減するとかそういったレベルではありませんし、足りない分は我慢するのではなく貯金すればよいだけの話ですね。要するに頭金です。
頭金がそこまで貯まっていないという人は住宅購入には「時期尚早」ということですし、頭金を貯めるのは難しいという人はそもそも住宅購入を諦めた方がよいですね。頭金を貯められない状況にある人が何十年も何千万円も払わないといけない住宅ローンの返済に耐えられるとは思えません。
「貧乏人に冷たい。」と思われるかもしれませんが、そもそも持ち家と賃貸の居住コストはほとんど全く変わりませんからね。無理して持ち家を手に入れる必要など全くないのです。
加えて、頭金が増えれば増えるほど審査も通りやすくなり、住宅ローン金利も下がり、借入金額も減り、借入額も減り、支払利息も減るわけですから良いことしかありません。
そしてそれは何も若年層や低所得層に限った話ではなく、むしろ全ての住宅ローン利用者に当てはまることですね。
住宅ローン金利上昇リスクを低減させたい方は参考になさってください。