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これまでの「0円」住宅と言えば太陽光発電を使ったものですね。土地が安い場所でギリギリまで大きい太陽光発電を載せた家を建てると、売電収入だけでマイホームの購入費用が賄えてしまう、という内容です。
確かに太陽光発電の売電価格は10年くらいで回収できるように設定されていますので、最初の10年でソーラーパネルのコストを回収し、あと10年くらいそのソーラーパネルが働いてくれれば、「ソーラーパネルのコスト」と同じくらいの儲けを得られることができます。
たとえば1,000万円の太陽光発電を載せるとすれば20年間で2,000万円の売電収入が得られる可能性があるので、もし土地と家が1,000万円で建てられればトータルで「無料」になるということです。
とは言いつつ家だけならまだしも「土地+家」で1,000万円というのはなかなかハードルが高いですし、当然それだけのソーラーパネルを設置しようと思えば土地も相応に必要になってきます。
つまりソーラーパネルの生み出す10年分の利益(最初の10年分はソーラーパネル費用の回収に充当)と、そのソーラーパネルを増設するのに必要な土地代を比べ、前者の方が高ければソーラーパネルを増設した方がよく、後者の方が高ければソーラーパネルを増設せず、住むのに必要な分だけの土地を買った方がいい、ということになります。
とするとやはり太陽光発電を使った「0円」住宅というのはあくまで、日当たりがよく土地代が安い場所に限られるということですね。
そもそも買取価格は徐々に引き下げられておりますし、その買取価格が維持されるのも当初の10年or20年ですからね。それ以降はまず利益が出ないと考えた方が安全です。
何も使われていない屋根の有効活用として、太陽光発電が依然魅力なのは間違いありませんが、それで家を建ててしまうというのは現実的にはかなり難しいということです。もしその方法が有効なら日本中で「0円」住宅が建っているはずですからね。
・・・と、のっけから話がそれておりますが、今回の「0円」住宅は太陽光発電ではなく賃貸併用住宅の話です。
賃貸併用住宅もたまに「トータル無料で手に入る」と言った趣旨の記事を見かけることがありますが、記者自身は正直、かなり「眉唾」だと思っています。もし本当に無料なら日本中の住宅が賃貸併用になっているはずですからね。
そうした中、「ほぼ0円で新築住宅購入可能」という記事を見つけました。その中身はこのようになっています。
・住宅ローンの返済額が月33万円
・家賃収入は月37万円
つまり、毎月4万円・年間48万円のプラス、ということですね。もし事実なら素晴らしいですが本当にそうなのか調べてみたいと思います。
残念ながら情報はこれだけなので中身は類推していくしかないですが、まず毎月の住宅ローン返済額が33万円で、金利が2%・期間が35年とすると住宅ローンの総額は約1億円、ということになります。
頭金を考慮すれば概ね1億2,000万円くらいの物件ということになるでしょうか?
次に家賃収入が月37万円で、大体5%くらいの利回りだとすれば賃貸部分は約9,000万円ということになります。差し引き自宅部分は約3,000万円ですが、ただこれだと自宅部分が50%以下となり、「住宅ローン」ではなく「不動産投資ローン」の世界になってきます。
だとすると頭金が別に1億円くらいあるか、金利がもっと高い不動産投資ローンを利用しているかのどちらかですが現実的に考えて後者とします。
したがって金利を3%と設定しなおすと住宅ローンの総額は約8,500万円となり、頭金を入れて約1億円の物件ということになるでしょうか?
しかしそうなってくると「自宅部分が1,000万円、賃貸部分が9,000万円」というなんだかよく分からないことになりますね(苦笑)。うーん計算が合いません。
そこで運用利回りを少し甘めに6%と想定して話を進めてみたいと思います。となるとこういった感じですね。
<賃貸併用住宅例>
・物件価格:1億円(土地5,000万円+建物5,000万円)
・頭金 :1,500万円
・自宅部分:2,600万円
・賃貸部分:7,400万円
・住宅ローン(不動産ローン):8,500万円×35年×3%
次にまず35年の収入を考えてみたいと思います。
月37万円×12か月×35年としたいところですが・・・実際には空室が起こりえますので1割減額して月33.3万円とします。
さらに新築時の賃料と築35年の賃料とでは全く異なりますね。賃料が物件価値にスライドするものとし、「土地の価値は不変だけれど建物の価値は築20年くらいでほぼ無価値になる」と設定すると、21年目以降の賃料は月16.7万円、つまりちょうど半分になる計算です。
年間の賃料に直せば当初約400万円だったものが21年目以降は約200万円になる、ということです。そうやって計算すると35年間の賃料収入はこうなります。
<35年間の賃料収入>
・約9,091万円
次に同じく35年間の費用を考えていきたいと思います。まず住宅ローンの利息は35年で約5,249万円となります(金利3%)。
加えて建物=5,000万円が無価値になるわけですから、減価償却が5,000万円ということになります。
また税金が年間20万円くらいかかるでしょうか?とすると35年分で700万円とします。
さらに建物が35年間メンテナンスフリーとは考えにくいですね。少なくとも中の備品は経年劣化していきます。こうした維持費が10年ごとに500万円くらいかかるとすれば、35年で1,750万円という計算になります。
まとめると35年間の費用はこうですね。
<35年間の費用>
・住宅ローン利息:5,249万円
・建物の減価償却:5,000万円
・税金:700万円
・維持費:1,750万円
・合計:1億2,699万円
つまり・・・差し引き3,600万円くらい費用の方が多いのですね!この費用には自宅部分も含まれているため必ずしも「赤字」とは言いませんが、少なくとも「ほぼ0円で新築住宅購入可能」というのは全くのデタラメ、ということになります。
世の中、うまい話はないということですね。
なお、「それでも3,600万円で1億円の家が買えるならいいではないか」と誤解されているかもしれませんが、この費用の中には頭金と住宅ローンの「元本返済」は含まれていません。元本返済はキャッシュと不動産を交換しているだけで費用ではないからです。
こうした元本返済も含めて考えれば
頭金1,500万円+元本返済8,500万円+差し引き費用3,600万円=1億3,600万円払って1億円の家を買った、ということですね。
ちなみにその1億円の家も20年後には5,000万円の価値に下がっているわけですが。
そのように考えると賃貸併用住宅は必ずしも有利な投資手法ではないことが分かってきます。
もちろん、自己居住用物件であろうと賃貸であろうと何がしかの住宅コストは発生するわけですが、賃貸併用住宅であってもそれは変わらないということですね。
なお賃貸併用住宅の場合、確か相続時にメリットがあると思いますのでそこまで視野に入れれば話が変わってきますが、その場合でも実際に入居者がいないと費用倒れになってしまいますし、税制がずっと変わらない保証はありませんのでご注意ください。
そうしたわけで、賃貸併用住宅を建てれば賃料で住宅コストが賄えてしまう・・・可能性は低い、ということですね。
不動産投資は「最初の数年は黒字だけれどだんだん赤字になっていく」というのが一般的です。
また見た目には黒字でも、その裏で建物の価値がどんどん目減りしていて「実質赤字」に陥りやすいのも特徴です。こうした場合はいざ売却しようとしたり、賃料が下がる中で、損失が露見することになります。
繰り返しになりますがもし本当にコストが無料で自宅が建つのであれば世の中、賃貸併用住宅だらけになりますね。
十分ご注意ください。
参考になさってください。
<日本住宅ローンプランニング編集部>