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住宅ローンの参考書をパラパラ見てみるといつも指摘されているのが金利上昇リスクですね。「金利が1%上がると大変、金利が2%上がるととても大変、金利が3%上がると生活が破綻するので固定金利を利用しなさい」と言った具合です。
話としてはとても分かりやすいのですが、これまでの長期金利の推移を眺めてみると全く現実的ではないことに気が付きます。過去30年の長期金利の推移はこのようになっています。
80年代のバブル崩壊以降、長期金利はずっと下がり続けてきたわけですね。過去20年間、長期金利は3%どころか2%を超えることもほとんどなかったことが分かります。「識者」が心配するような金利上昇局面もほとんどありません。
20年と言えば平均15年程度ともいわれる住宅ローンを返済し終えられる長さですね。つまり今、完済のタイミングを迎えている方のほとんどは一度も住宅ローン金利の上昇を体験していない、ということです。とすると識者が指摘する「金利上昇リスク」というのは一体何だったのか、という純粋な疑問が沸き起こってきますね。
過去20年の間に何度も景気回復局面があり、特に2005年前後の景気回復は「戦後最長」だったにも拘わらず金利が上昇していない点を踏まえると、この低金利は景気循環に基づくものではなく、もっと構造的なものであることが分かります。
要するに少子高齢化が進む中で、需要も設備投資も徐々に縮小すると共に金利が下がりやすくなっていることに加え、そうした日本経済の「右肩下がり」の状況を打破すべく日銀が積極的に金融緩和を拡大させていることが、長期金利の低迷の理由と言えるのでしょうね。
とすると本格的に金利が上昇し、「金利上昇リスク」が現実化するためには
・少子高齢化が止まり、需要が持ち直す
・日銀が金融緩和を終了させる
の2点が必要ということになります。
しかしながら1についてはまず実現は困難ですので、焦点は2の、いつ日銀が金融緩和を終了させるのか、という点に絞られます。
これについてはすでに明確な条件が発表されておりますのでわかりやすいのですが、何かというと「物価の上昇率=インフレ率が2%を超えたとき」ですね。そんなわけで前置きが長くなってきましたが、「住宅ローン金利がいつ上昇するのか?」という問いの答えは「インフレ率が2%を超えたとき」ということになります。
ではいつ「インフレ率が2%を超えるのか」が次の疑問として出てくるわけですが、その到達目途として日銀が「物価展望レポート」を発表していますのでその中身をチェックしてみたいと思います。最新の見通しはこういうことになっています。
・2016年度 : −0.1%
・2017年度 : +1.5%
・2018年度 : +1.7%
要するに3年後の2019年までは金融緩和が維持され、住宅ローン金利が本格的に上昇する可能性は低い、ということですね。
・・・と、ここで話を終わらせてもいいのですが、今年度のインフレ率が−0.1%なのに、来年度にいきなり+1.5%まで上昇すると言われて違和感を感じない人は・・・いないでしょうね。
その違和感はこれまでのインフレ率の推移と重ねてみれば一目瞭然です。日経新聞の作成したグラフがこちらです。
完全に右肩下がりとなっているインフレ率が今年からV時回復するという見通しですが・・・この見通しを素直に信じろという方が無理がありますね。
実際、日銀の3ヶ月前の見通しはこうでした。
・2016年度 : +0.1%
・2017年度 : +1.7%
・2018年度 : +1.9%
つまり「2年後にはかなり上昇する」という予測を毎回下方修正しながら続けてきたということです。日銀からすれば世間のインフレ期待を高める必要があるわけで、その点では一定の意義があるのでしょうけれど、金利上昇リスクを正確に把握しておきたい住宅ローン利用者からすれば全くあてになりません。
そもそも黒田日銀は「2015年には物価上昇率は2%になる」と言っていたわけですからね。
ということで第3者のインフレ率見通しをチェックしてみると、ニッセイ基礎研究所の見通しはこのようになっています。
2023年にようやく2%に達するということですね!今から7年後です。
ただその後またすぐに2%以下に下がるわけですから、仮にこのような推移になったとしても2023年に本当に金融緩和が解除されるのか、というのは微妙ですね。
むしろ「10年後の2026年も金融緩和は続く」と解釈した方が良さそうです。
次に最も中立的と考えられるIMFの最新の見通しをチェックしてみるとインフレ率はこのように推測されております。
・2016年 : −0.2%
・2017年 : +0.5%
・2021年 : +1.3%
残念ながらこちらは2021年までの予測ですが、それでもやはり2%には遠く及びません。
結論としては、専門家は「5年後も10年後もインフレ率が2%を安定して超えることはない」と予測している、ということですね。
言い換えれば「異次元の金融緩和」も「住宅ローンの低金利」も、「5年後や10年後も続いている」ということになります。
こうした見通しが正しいのかは分かりませんが、少なくとも大本営発表の性格が強い日銀の展望レポートよりは遥かに信憑性が高そうです。
このIMFのレポートは定期的に更新されているようですので、当サイトとしてもwatchしていきたいと思います。
住宅ローンの「金利上昇リスク」が気になった方は参考になさってください。
<日本住宅ローンプランニング編集部>