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週末の住宅ローンに関する報道をチェックしていると、ちょっと信じられないような記事を目にしました。北國新聞社が配信したもので、日銀の金沢支店長が講演で「住宅ローン金利はもう下がることはない」と言ったとのことです。
報道では主にこうしたコメントが紹介されています。
・(住宅ローン金利について)もう下がることはない。景気がさらに良くなればローン金利も上がる可能性がある。
・(昨年9月に日銀が長短金利を操作しながら金融緩和を続ける政策に変更したことで)長期金利、物価が上昇を始めた。国内外の経済は良い状況で、ローン金利は昨年7月が底だった。
素人目に見ても(聞いても)間違いだらけですね!一体どうなっているのでしょうか・・・。
とは言いつつさすがにこの断片的なコメントだけで批評するのもどうかと思い、数分ほど検索してみましたが上記記事以外の情報は見つけられませんでした。というわけで裏付けは取れておらず、新聞社が曲解したり「盛った」可能性は十分ありますが、しかし新聞報道の信憑性は他メディアに比べると遥かに高い点を考慮して、「発言は概ねこの通りだった」という前提で話を進めていきたいと思います。
まず前段の「住宅ローン金利がもう下がることはない」というのはあり得ないですね。短期的にも中長期的にも住宅ローン金利が再低下する可能性は十分あります。
確かに支店長氏もコメントしている日銀の「長短金利操作」によって今のところ市場金利は安定的に推移しているわけですが、しかし日銀はこの「金利操作」によってピンポイントで金利を固定しているわけではありません。一定の「変動幅」を認めているのですね。
例えば最も代表的な金利指標である長期金利=10年もの国債金利についてはその変動幅を概ね「−0.1%〜0.1%」に設定していると目されています。そして足元の長期金利は0.04%前後で推移しています。
つまり・・・短期的には0.04%から−0.10%まで、「0.14%程度の低下はいつでも起こり得る」ということです。
そしてもちろんこの「長短金利操作」の操作目標は引き上げることも引き下げることもできます。物価が上昇し安定的に2%を超えてくるようになれば操作目標は引き上げられるでしょうし、逆に物価がさらに低迷してデフレに逆戻りしていくようであれば引き下げられるのは当然です。
お金の価値とモノの価値は反比例しているわけですから、
・金利が下がる=みんながお金を借りる=お金の量が増える=お金の価値が下がる=モノの価値が上がる=インフレになる
というメカニズムが期待されるということです。
そして足元の物価は0%前後で推移しており一進一退の状況が続いているわけで、客観的に見ても「操作目標の引き下げ」は十分あり得ます。とすると報道されているような「住宅ローン金利についてもう下がることはない」という発言が真実なのだとすると100%間違いということです・・・いやはや。
さらに金融政策者として大切なのは、「こちらの手を読まれない」ということです。長期金利が昨年からかなり上昇してきたとは言え、引き続き上記「−0.1%〜0.1%」のレンジ内に留まっている背景には、当然、「日銀が操作目標を引き下げるかもしれない」という懸念が一定の影響を与えているものと思います。
実際、日銀の黒田総裁は常に「必要があればいつでも操作目標を引き下げる」と言った趣旨の発言をしていると思いますが、それにはこのような背景があるわけですね。
逆にもし市場が「金利引き下げはない」と思うとどうなるでしょうか?
金利は今後、変わらないか上がることになりますので、それはつまり「国債価格が今後、変わらないか下がるだけ」となることを意味します。とすると市場関係者からすれば「国債の空売りを続ければ絶対損しない」わけでバンバン空売りが膨らむことになります。空売りとは先に売っておいて値段が下がったら買い戻す、「下がると儲かる取引」だからですね。
またすでに国債を保有している投資家や金融機関も、今後値段が下がることが明確なのであれば早めに売ろうとするでしょう。時価評価すれば持っておくだけで損するわけですからね。
つまり両輪で国債の売りが膨らむわけで、売りが膨らめば値段が安くなるのは当然ですから、国債は下がり、金利はその分本当に上昇することになります。
「みんなが金利が上がると予想する」ことで、本当に金利が上がるわけですから何だか騙されているような気もしないでもないですが、相場というのはすべからくそのように「思ったものが自己実現する」性質があります。
では仮に投資家のみなさんが日銀支店長氏の発言を真に受けて国債の売り&空売りに走り、金利が急上昇したらどうなるでしょうか?上記の通り日銀の設定している長期金利の操作目標は概ね「−0.1%〜0.1%」と思われます。要するに「上限がある」ということですね。もしその上限を超えてくれば、積極的に国債を購入して金利を引き下げる必要が出てきます。
実際、日銀は今年の2月に長期金利が一時的に0.15%になった時も、積極的な市場介入で金利を引き下げざるを得ませんでした。
ただでさえ日銀の国債保有残高が急増しているわけで、日銀としてはそうした不要な市場介入=国債購入は避けたいというのが本音だと思います。その点では本来、口が裂けても「金利がもう下がることはない」などと言えないわけですね。その点では二重の意味で誤りだということです。
模範解答は何かといえば「日銀は金利を下げることも上げることもできる」というものですね。中央銀行というのは常に市場に対してマッチョでないといけないわけです。
もちろん、日銀としては2%の物価目標達成に向けて、みんなのインフレ期待を醸成しないといけないわけで、その点では「これから物価は上がっていくよ、そうなれば結果的に金利も上昇していくよ」と言いたい気持ちは分かります。ただそれはあくまで「物価が上がれば」という注釈付きで語られるべきもので、金利だけを取り上げて「もう下がることはない」などと言うのはご法度です。
繰り返しになりますが、なんといっても今や日銀が直接金利水準をコントロールしているわけですからね!当事者なわけです。とすると言葉だけが独り歩きしていく可能性は十分あります。実際、もう独り歩きしているわけですし・・・。
後段の「(昨年9月に日銀が長短金利を操作しながら金融緩和を続ける政策に変更したことで)長期金利、物価が上昇を始めた。」というのも丸っきりの間違いですね!もちろん長期金利が上昇したのは事実ですが、上記の通り金利と物価は逆相関の関係にありますので、金利が上昇したのであれば物価は下がらないとおかしいです。
金利が上昇したことで、金融機関を中心に株価が上昇するといったポジティブな影響が出たのは事実ですが、しかし物価が直接的に上昇するはずがありません。もし金利が上昇することで物価が上昇するのであれば、どんどん金利を引き上げていけばいいわけで、2%のインフレ率目標を全く達成できていない日銀が手をこまねいているはずがありません。
なぜ日銀が金利を引き上げていないのか、そしてなぜ金利の操作目標に「上限」をつけているかと言えば、まさしく金利が上がれば物価が下がってしまうからですね。
もし金利が上がったらどうなるかを想像してみれば簡単にわかります。ほとんどの企業や現役ファミリー世帯の過半はローンがありますので、金利が上がれば支払い利息が増え、経営や家計が苦しくなります。とすると需要は間違いなく減ります。モノの値段は需要と供給のバランスで決まりますから、需要が減ればモノの値段は下がり、デフレへ一直線ですね。
また、借り入れも減るでしょうから、世の中のお金の量が減り、お金の価値が上がり、モノの価値が下がるという、金融緩和とは真逆のメカニズムが働きますので、やっぱり物価は下がります。
本気で「長期金利が上昇したので物価が上昇を始めた」と言っているのであれば、言い方は悪いですが「ちょっと頭がおかしい」レベルです。金沢支店長と言えば日銀幹部なわけですからね!もし日銀幹部が金融政策をよく分かっていないのだとすると絶望的な気分になってきます。
そして最後の「ローン金利は昨年7月が底だった。」という発言も全く不適切です。「昨年7月が底になってほしい」ということなら分かりますが、景気や経済、物価動向次第では、日銀が大きく金利の操作目標を引き下げ、ローン金利が昨年7月基準よりさらに下がる可能性はゼロではありません。
確かにその可能性は低いかもしれませんが、ゼロではない以上、「底だった。」 と断定することは誰にもできません。未来のことは誰にもわかりませんし、金融や経済の世界は「想定外」のことがよく起こるからです。
しかも支店長氏は繰り返しになりますが日銀幹部であり、金融政策の当事者であり、さらに金利を直接的にコントロールしている立場にあるわけですから、なおさらこうした発言は慎まないといけません。
もし仮に住宅ローン金利が今後何らかの理由で史上最低金利を更新した場合、支店長氏はその言葉を信じた住宅ローン利用者の逸失利益を損害賠償する覚悟はあるのでしょうか?
それこそ固定金利タイプはともかく、変動金利タイプは昨年7月時点でもそこまで下がっていませんでしたので、競争激化などの他の要因で最低金利を更新する可能性は結構ありそうです。
機会があればぜひその講演録の全文をチェックしてその真意を理解したいものですね。日銀金沢支店さん、支店長氏の名誉のためにもぜひよろしくお願いします。
いずれにしても「住宅ローン金利がもう下がることはない」という発言については「全く正しくない」「100%誤りである」ことを強調しておきたいと思います。
参考になさってください。
<日本住宅ローンプランニング編集部>