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前回のコラムでもご案内したように、1980年代のバブル崩壊以降、金利がずっと低下してきている主な理由は、日本銀行=日銀が積極的な金融緩和を実施してきているからですね。それに伴い、住宅ローン金利もずっと低下してきています。
つまり今後の住宅ローン金利が上昇するのも低下するのも「日銀の金融緩和次第」ということです。金融緩和が続く限り住宅ローン金利は低金利を維持する一方で、金融緩和が終了すれば住宅ローン金利は上昇に向かうというわけですね。
ではいつ金融緩和が終了するのか気になってくるわけですが、今はその基準も明確になっておりますのでとても分かりやすいですね。具体的には「物価上昇率=インフレ率が安定的に2%を超えてきた時」ということです。
では実際に金融政策をコントロールしている日銀の金利見通しはどうなっているかと言うと、「経済・物価情勢の展望レポート」の最新版=2017年7月発表分では以下のように予想しています。
・2017年度 : +1.1%
・2018年度 : +1.5%
・2019年度 : +1.8% ※増税の影響を除く
しかし・・・このように物価が上昇していく可能性は「限りなくゼロ」と言ってよいと思います。と言うのも、この日銀の物価見通しは全く当てにならないのですね!黒田日銀スタート時の2013年春の段階で、「2年後に2%の物価上昇率達成」が公約だったわけですが、その約束は全く果たされないまま4年以上経過しております。そして「2%目標達成時期」も先送りされ、この「展望レポート」も下方修正が続いています。
その「先送り&下方修正」はすでに6回目ということですから、「信憑性が全くない」というのもご理解いただけると思います。つまりはもはやこの「展望レポート」は「日銀の見通し」ではなく「日銀の努力目標」あるいは「日銀の願望」くらいの意味しかないということです。
ではこの日銀の物価見通しが当てにならないとして、他の専門家は今後の物価、そして金利についてどのような見通しを持っているのでしょうか?
ということで今回は内閣府が7月18日の経済財政諮問会議に提出した「中長期の経済財政に関する試算」をチェックしてみたいと思います。「経済再生ケース」ではこうですね。
ちょっと図が小さくて恐縮ですが、まず消費者物価を抜き出すとこうなります。
・2017年度 : +1.1%
・2018年度 : +1.3%
・2019年度 : +2.3%
・2020年度 : +2.5%
・2021年度〜 : +2.0%
2019年度にインフレ率が目安となる2%を上回ってくる計算ですが、ただこれは2019年秋に予定されている消費税増税の影響が大きいですね。2020年度もそうだとすれば、本格的に2%を上回るのは「2021年度」ということになります。
そうした物価上昇を前提に具体的な長期金利の推移はこういう見通しですね。
・2017年度 : +0.1%
・2018年度 : +0.1%
・2019年度 : +0.7%
・2020年度 : +1.4%
・2021年度 : +2.5%
・2022年度 : +3.2%
・2023年度 : +2.7%
・2024年度 : +4.1%
・2025年度 : +4.3%
2021年度に2%を超え、2022年度に3%、2024年度に4%ということですが・・・さすがにこの見通しを真に受ける方はおられないと思います。バブル崩壊以降、どれだけ積極的な財政支出を行っても、どれだけ積極的な金融緩和を行っても、ミニバブルが来ても、長期金利は上昇しなかったわけですからね・・・。
つまりはこの「経済再生ケース」もまた、「内閣の願望」程度のものですね。信憑性はありません・・・。
ただ内閣府もさすがに「願望」だけではマズイということで、より現実的な見通しも一緒に発表しています。それが「ベースラインケース」で、具体的にはこういうことですね。
これまた抜き出すとこうなります。まず消費者物価。
・2017年度 : +1.1%
・2018年度 : +1.3%
・2019年度 : +1.8%
・2020年度 : +1.8%
・2021年度〜 : +1.1%
つまりは、インフレ率は永遠に「2%目標」に届かないということです。次に長期金利。
・2017年度 : +0.1%
・2018年度 : +0.1%
・2019年度 : +0.5%
・2020年度 : +0.9%
・2021年度 : +1.3%
・2022年度 : +1.5%
・2023年度 : +1.6%
・2024年度 : +1.7%
・2025年度 : +1.8%
こちらも2025年度まで「2%に届かない」ということになり、現状の金利水準から見れば上昇するものの、引き続き低金利であることに変わりはありません。
ちなみに上記の通りインフレ率が「2%目標」に届かなければ、日銀は現状のイールドカーブコントロールを続けると考えるのが自然かと思いますが、そのイールドカーブコントロールにおいて長期金利の操作目標は現在「0%」に設定されており、そこから大きく乖離して上昇するとは考えにくいですね。
実際、足元では長期金利の「上限」は概ね0.1%に設定されており、それを超えた場合は「指値オペ」によって物理的に長期金利が引き下げられている状態です。
そのような日銀による金利コントロールが続くと考えれば、長期金利は「−0.1%〜+0.1%」の範囲内で推移することになりますが、内閣府の金利見通しでは上記の通り2019年度には+0.5%、2020年度には+0.9%と、そうは言いつつ明確に上昇することが予想されています。
つまり内閣は「日銀は2%のインフレ目標を達成できないにも関わらず、金融緩和策=イールドカーブコントロールを後退させる」というケースをメインシナリオに置いているということですね。
あるいは「日銀は早晩、金利のコントロール力を失う」ということなのかもしれませんが、いずれにしても「一心同体」で「デフレからの脱却」を目指しているはずの安倍政権と黒田日銀の足並みが微妙に揃っていません。
もちろん、これは単なる数字のアヤであり、そこまで真剣に整合性が取られたものではなく、限られた条件で少しでも明るい見通しを算出しようとした結果、金利にシワ寄せが来たということだとは思いますが、繰り返しになりますが「インフレ率が2%目標に届かず、イールドカーブコントロールを含めた日銀の異次元緩和が継続していく」とすれば長期金利の見通しはこのようになるはずです。
・2017年度 : −0.1%〜+0.1%
・2018年度 : −0.1%〜+0.1%
・2019年度 : −0.1%〜+0.1%
・2020年度 : −0.1%〜+0.1%
・2021年度 : −0.1%〜+0.1%
・2022年度 : −0.1%〜+0.1%
・2023年度 : −0.1%〜+0.1%
・2024年度 : −0.1%〜+0.1%
・2025年度 : −0.1%〜+0.1%
これまた前回のコラムでご案内したように、来年4月の日銀総裁交代のタイミングでインフレ目標が見直される可能性はゼロではありませんが、それでも長期金利が1%を大きく超えることはないと思います。
その点では内閣府の見通しをもってしても今のところ金利上昇を心配する必要はないということですね。
民間エコノミストの見通しを取りまとめているESPフォーキャスト調査でも、2017年7月の金利見通しはこうなっています。
なぜか、「高位5人」の見通しがプロットされていますが、中央値はあくまで「短期政策金利」も「長期金利の誘導目標」も「0%以下のまま」ということです。
実際、42人のエコノミストのうち35人が「横這い」という回答だったようですから、全体の見通しは明確ですね。
ブルームバーグ社が民間エコノミスト43人を対象にした調査はもっと辛辣で、「インフレ率が安定的に2%を超える状態が実現するか」という問いに対して「はい」と答えたのは16人で、26人=60%は「いいえ」と回答した、とのことです。
かく言う記者も「インフレ率が安定的に2%を超える状態が実現する」というイメージを全くもてませんが・・・。
いずれにしてもその「答え」は、毎月の物価上昇率をチェックしていけば自ずと明らかになります。当サイトでも今後の住宅ローン金利上昇のカギを握る物価動向について積極的にご案内していこうと思います。
参考になさってください。
<日本住宅ローンプランニング編集部>